奥様と名乗る方から鬼気迫る電話

 

社長時代、社員を新たに雇うことになり、求人広告を出しました。

人を雇うって、想像以上に大変なことです。 採用するまで、本当にいろんなドラマがあります。

その中の一つ、いまだに私自身真相が分からない事件ですが、忘れられない事件をご紹介します。

 

求人広告を出すと、翌日から電話は鳴りっぱなし、早ければ翌々日から履歴書が届きます。

その時も、広告を出した翌々朝、届いた履歴書をチェックしていました。 すると、お昼ごろ一本の電話がありました。

 

「履歴書を送ったXXさんと言う方からです。」と事務職の女性が言うので、「ああ、実は他の会社に決まりました~とかの連絡かな~」と思いながら、電話を代わりました。

 

奥様がなぜ自分の夫の住所を知らない?

 

すると、電話の相手は50代ぐらいの女性の声で、とてつもなく切羽詰っている感じで、あせりながら叫ぶように、まくし立ててこう言ってきました。

 

「あの、あの、私、XXの妻ですが、主人がそちらの会社に履歴書を出していますよね! いや、出していると思うんですけど! 緊急事態なんです! とにかく緊急事態なんです! 主人と連絡を取らなくてはいけないんですが、主人の連絡先を教えてください! お願いしますっ! 緊急事態なんです!!!」

 

もう意味が分かりません。

 

なぜ、携帯に連絡しない?

なぜ、奥様がご主人の連絡先を知らない?

なぜ、履歴書をあずかっているだけの会社がそんな緊急事態に対応する義務がある?

 

 

警察沙汰になる寸前

 

なので、私は混乱しながらも、冷静に淡々とこう答えました。

「ご主人が履歴書を弊社に送っているはずだとおっしゃいましたが、電話で履歴書が弊社に届いているかどうかをお答えすることはできません。」

 

自称奥様: 「待ってください! 送っているはずなんです! 履歴書を今開封してください! 住所も分からなくて、私困っているんです! お願いします!」

と言って、泣き叫ぶ。

 

「申し訳ありませんが、対応できません。」 と、私。

 

相変わらず泣き叫んで、わけの分からないことをわめき散らしている自称奥様。

 

私:「あの、電話で私が妻ですと言われても、こちらでは確認しようもありませんし、困りますので、失礼します。」

 

自称奥様:「ちょっと、待ってください! じゃあ、私がそちらに行けばいいんですね!

今から行きますから! そこで、履歴書を見せてもらいます!」

 

もう、ここまで来るとあまりの相手の必死さと無茶苦茶さに恐怖を感じました。 何を言っているのか、状況が全く分からなかったし、泣き叫んでいて、本当に怖かったです。

 

私: 「いい加減にしてください! 弊社に来られても対応できません。 来ないでください。 もし来たら、営業妨害でその場で警察呼びます。 そのXXさんという方は弊社の社員でもなんでもなく、ただただ履歴書を弊社に送ったかも知れないという方じゃないですか。 なんで、私たちがそこまで関わらなくてはいけないんですか? 迷惑です。 緊急事態というなら、それこそ警察へ相談するべきではないですか?」

と務めて冷静に答える。

 

それでも「今から行く!」と泣き叫んで主張する自称奥様。 らちがあかず、辟易しながら、私は一方的に電話を切った。

 

正直、この人が会社に現れたら刺されるかも知れないとさえ思いました。

そのぐらい、この方は鬼気迫って泣き叫んでいたんです。 尋常じゃありませんでした。

 

 

泣き崩れた応募者

 

履歴書を確認すると、XXさんからの応募がありました。

なので、すぐにXXさんに連絡し、携帯の留守電に「折り返し連絡ください」とメッセージを残しました。

 

お気の毒にXXさん、面接とか採用とかの連絡だと思ったに違いありません。 ちょっとしてから折り返しの連絡があり、弾むような声でした。

つらいけど、自称奥様からの電話の件を切り出しました。

 

奥様と名乗る女性から電話があり、緊急事態だから連絡先を教えてほしいと要望があったこと、でも個人情報でもあるので教えてはいないことを伝えました。

 

電話口で、XXさんが、「え!」っと一言言った後、絶句してしまっているのが分かる。 絞り出すような震える声で「申し訳ありませんでした・・・。」と言うのが精いっぱいなようでした。

 

そして、奥様と名乗る女性が事務所に押し掛けてくると電話で泣き叫んでいること、来られるとこちらとしては大変迷惑なこと、もし本当に奥様なら、止めていただきたいことを淡々と伝えました。

 

そして、とにかく奥様と名乗る方の様子が尋常じゃないので、万が一その方が現れたら、即刻警察を呼ぶと言いました。

 

電話口で、嗚咽が聞こえました。 泣き崩れているようでした。

 

 

冷徹かもしれないが、私は責任を全うするのみ

 

XXさんは、私が何があったかを伝えている間、泣いているようでしたが、最後、涙声で「本当にご迷惑をおかけいたしました。 できましたら、お邪魔して事情をお話ししてお詫びしたいのですが・・・」と申し出てきました。

 

本当にお気の毒だと思うのです。 なにか事情があるのでしょう。 しかも、こうなった責任はXXさんのせいではないかも知れません。 勝手にストーカーされているのかもしれません。 もし、プライベートでこのような事態にあったら、とりあえず話だけでも聞くと思います。

 

でも、私は社員と会社を守らなくてはいけないんです。 しかも大会社ではなくて、社員数人の会社です。

100人社員がいて、一人ぐらいこんな深刻な問題を抱えていても、100分の1ですが、社員4人の会社で5人目に深刻な問題を抱えているかもしれない人を入社させるわけにはいかないんです。

ですから、XXさんの申し出はお断りしました。 そして、申し訳ないけど採用を検討することはできない旨も伝えました。

 

自称奥様から電話があった時、営業の男性は外出していて、事務所には私と事務の女性と二人だけでした。

本当に怖くなり、その自称奥様が現れて何かあってはいけないので、事務の女性をその場で帰宅させました。

そして、通常は私の両親が保育園から息子を事務所に連れてきくれていたのですが、安全のため、息子を両親に実家で見ていてもらいました。

営業達にも連絡して事務所に戻らずに直帰するように指示を出し、事務所の向かいにある会社には、念のため不審者に注意してほしいことを連絡し、警備会社にも連絡して、警察に巡回をお願いして・・・と、念には念を入れました。 本当は自分も帰りたいぐらい怖かったのですが、自称奥様が現れて、事務所の向かいの会社に迷惑をかけても困るし、放火でもされたら怖いので、夜の7時ぐらいまで居残りました。

 

幸いにもその自称奥様が現れることはなく、無事何事もなく済みましたが、いまだにあの時の恐怖は忘れられません。

 

結局、自称奥様はなんだったのか? 謎です。

いや~、採用ってドラマですね~。